病気の話-気管支喘息

・気管支喘息という病気
正式に「気管支喘息(きかんしぜんそく)」とか、省略して「喘息」とか、病院によっては「アレルギー性」とか「大人の」とかを付け加えて「~喘息」とか呼ぶ事がありますが、これらはすべて同じものを指しています。喘息の方の典型的な訴えは、
1. 呼吸をするとのどの奥でヒューヒューと音がして息がしにくい
2. 夜間や明け方に咳や息苦しさが出現して眠れない
3. 運動していて十分に息が吸えない感じで苦しい
などです。一方、我々医者から見た場合には、熱は無いのに咳が続きカゼが直らないという訴えで受診された方の聴診をしてみると、息を吐く時に気管の奥の方であぶくのようなブツブツ、ゾロゾロという喘鳴(ぜんめい)と呼ばれる音がして喘息と判明するというのがよくあるパターンです。
昔はこれらの喘息症状は気管支が一時的に狭くなることにより起こるとされていたので、気管支を広げる薬を使えば治ると考えられてきました。しかし近年の研究により、この病気の本質は気管支の表面をおおう粘膜のむくみなのだということがわかっています。むくみは粘膜の中で起こっている炎症により生じ、炎症はいろいろな要因により悪化します。炎症を放置し続けると元に戻りにくくなることも分かっています。

・吸入ステロイドという薬
従って喘息(=気管支の粘膜の炎症によるむくみ)の治療には炎症を抑えるお薬、すなわちステロイドが必要だという事になります。ステロイドは非常に有効な薬でありながら、内服による全身的な投与を長期間継続すると副作用がやや多い薬です。そこで副作用を少なくして効果的に継続していけるように、気管内への部分的な吸入投与という方法が開発されました。皮膚に傷があれば軟膏をじかに塗り込むように、吸い込むという方法で炎症を起こした気管支の粘膜に薬をまいていくのです。「気管支の塗り薬」だと説明される先生もいます。

・薬はいつまで続けるのか
喘息の主たる治療薬である吸入薬には、ステロイドに加えて気管支拡張薬という症状を速やかに取り除いてくれる薬が一緒に配合されています。それにより非常に速やかに苦しさや咳などの症状が無くなるようになっています。しかし、咳や息苦しさという自覚症状がなくなったらすべての問題が解決したというわけではありません。気管支の粘膜の炎症は数日の服薬で消失してしまうものではなく、なかなかおさらないものなのです。自分で自覚できる症状がなくなってからもしっかり長く薬を続けないと、ちょっとしたきっかけでまた悪化しやすくなります。薬を中断しているときの方が悪化からの回復に時間がかかるとも言われています。数ヶ月単位で自覚症状が出ない状態が続き気管支の粘膜の炎症が減ったと判断できたら薬の量は減量して行きますが、吸入ステロイドに関しては中止せずにずっと続けておいたほうがいいという意見が現在の主流です。
糖尿病の方は血糖値を、高血圧症の方は血圧を測定してご自身の病気の状態をご自身で評価できますが、喘息の方はピークフローメーターを用いなければできません。ご自身の病気の状態を知るのは大幅に悪化して自覚症状が出現したときだけなのです。悪くなったら治療を再開するのではなく、悪くならないようにしていくという選択をしていただきたいと思っています。

・咳喘息の場合
ただし「咳喘息(せきぜんそく)」の場合は喘息とは違い治療を中断するという選択を行う事があります。咳喘息とは「長引く咳」をひき起こすいくつかある原因のうちの一つです。ゼイゼイする典型的な喘息症状が無いのにもかかわらず、喘息治療薬により咳が止まるのが特徴の病気です。喘息治療薬の一つである気管支拡張薬や吸入ステロイドには咳止め効果はありません。しかしその投与により咳症状が改善するということは、その咳は喘息の影響で現れていたと解釈し、咳だけしか症状の無い喘息すなわち咳喘息と呼ぶのです。咳喘息は治療せず放置していると典型的な喘息に発展すると言われていますが、当院では咳喘息と判断した場合は初めての症状の場合であれば1-2ヶ月で一度治療を中断してみることもあります。しかしおよそ3割程度の方に長引く咳の症状が繰り返すという報告がありますので、もし再び長引く咳の症状が出現したなら本格的な喘息に移行してしまわないように吸入ステロイドは継続することをお勧めしています。

・タバコとアルコール
タバコは喘息発作のきっかけを作るものであり、同時に気管支の粘膜に炎症を更に悪化させる要因です。タバコは喘息の患者様にとってはまさに毒です。毒は避けましょう。
アルコールも喘息症状悪化の要因となります。ゼイゼイしていて具合が悪い時には避けましょう。少しの間だけ我慢していただければ、再びお酒を飲めるようになります。